私の霊能力エピソード交霊魔術交霊魔術・音々(ねね)霊能者
あれは中学2年生のときのことです。1年のときに仲がよく、3学期を終えて隣県に引っ越していったK子の泣き声が聴こえてきました。授業中に聴こえたときは空耳かと思ったのですが、夜、家で寝ているときにも聴こえ、あらためてK子の声にちがいないと確信したのです。
当時、すでに自分の霊能力に気づいていた私は、じっと目を閉じ、神経を集中させて、K子に呼びかけました。
(K子、K子、どうしたの?何を泣いているの?)
すると机に伏せって泣いているK子の姿が霊視で視え、それと共にK子の声が語り出しました。新しい学校で友達ができず、クラスの女子に無視されていること。特にリーダー格の2人には靴を隠されたり、お弁当を捨てられたり、暴言を浴びせられるなどのいじめを受けていること……。「私、もう耐えられない。死にたい!」K子は悲痛な叫びを上げると、机に伏せっていた顔をがばっと上げました。そして、部屋の窓を開け、ベランダへと出たのです。
K子の住まいはマンションの6階。私の胸はざわざわと騒ぎ出し、身体から汗が吹き出しました。
(K子、ダメ、ダメよ。落ち着いて!)
しかし、K子には私の声が届かないようで、彼女は椅子をベランダへ移動させ、その上に乗ったのです。
(K子!待って!!)
私は髪をふり乱して絶叫しました。すると、次の瞬間、自分がK子のそばにいることに気づいたのです。そして、K子の身体をじっと抱きかかえ、(K子、死なないで。貴女が死んだら悲しむ人がいっぱいいるよ。特にお母さんはあんなに貴女をかわいがってくれているじゃない)そう語りかけたのです。
K子には私の姿は見えないようですが、声は頭に届いているのがわかりました。「そうよね。そうよね。お母さんやみんなが悲しむ」そう言ってK子は号泣し、私はその間ずっとK子の背中をなでていました。
落ち着きを取り戻したK子がベッドで寝息を立て始めると、私は彼女の部屋を後にしました。しかし、自分の部屋に帰ったわけではありません。私は今の自分が幽体離脱をしているのだとわかりました。初めての経験です。きっと神様が友達のために私にこうした機会をくださったのでしょう。この機会に、K子へのいじめをやめさせようと私は思い立ったのでした。K子をいじめているというリーダー格の2人については、名前も顔も知りませんでしたが、強く念じると、知らない家の一室で、背の高い少女が寝ているところに移動したのです。彼女の周囲には黒々としたオーラのようなものが立ち込めており、中へ入り込むには困難を究めましたが、私はなんとか彼女の心の中に入ることができました。すると、彼女も先ほどまでのK子のように泣いているのです。
(お父さんとお母さんはいつもケンカばかり。お父さんはすぐお母さんを殴るから、お母さんはまた私が小さい頃みたいに出て行ってしばらく帰って来なくなるかもしれない。しばらくどころか、もう帰って来なくなるかも……)
私は悲しみに震える彼女の心をしばらく抱きしめていました。これが「ヒーリング」に当たるということは当時はわかりませんでしたが、無意識にそうしていたのです。彼女の強張った悲しみが緩んできたとき、私は語りかけました。(貴女の悲しみはよくわかる。辛い思いをしたわね。でも、それを関係のないK子にぶつけるなんてひどすぎる。お母さんを殴るお父さん以下の行為だと思う。K子はつらさに耐えきれなくなって、死をも考えたのよ。K子が死んだら、貴女は一生重い十字架を背負うことになるわ)
彼女はK子が死を考えたという事実にショックを受け、泣きながら(ごめんなさい、ごめんなさい)と繰り返していました。
もう一人のいじめっ子のところにも行こうとしたのですが、初めての幽体離脱体験はそこで終わってしまいました。気づくと、私は自分の部屋でベッドに横たわっていたのです。身体から力が抜け、のどがカラカラに乾いていました。
翌日の夜、心配してK子の家に電話すると、「急にいじめっ子の一人が謝ってきて、もうひとりの子にも、二度といじめはしないと約束させたの。他の女子にも、これからは普通に接するように言ってくれた。私も昨日は思い詰めて死んじゃおうなんて考えちゃったけど、なぜか急に貴女の声が聴こえて留めてくれたんだ。貴女に抱きしめられているうち、気持ちがどんどん落ち着いてきて……不思議よね。ここにいるはずのない貴女をそんなに身近に感じたなんて」
私は曖昧に笑ってごまかし、これから辛いことがあったら、いつでも相談してねと電話を切ったのでした。
私の初めての幽体離脱の霊能力は、友達の自殺未遂という一大事によって呼び覚まされた能力ですが、その後は自分の意志でできるようになりました。しかし、その後もやはり、祖父母の死や、弟の事故など、身近な人が苦境に立たされるときは、自然に幽体離脱が起こります。