弁天様にまつわる恋愛ジンクス~そのウソとマコト
その1
つい先日、「いきなり、彼氏に別れ話を持ち出された」という女性からご相談を受ける機会がありました。ご本人がおっしゃるには「1ヶ月前の日曜日、都内の大きな公園で一緒にボートに乗ったことがあるんです。後で友達にそのことを話したら、弁天様に嫉妬されたかもしれないと言われて、すごく気になってしまって……」。彼女は有名な『弁財天のジンクス』を信じてしまったようでした。
大きな公園の池には大抵、真ん中に浮島があって、そこには弁天様を祀った祠が建てられている。カップルがそこの池の周りでデートしたり、一緒に貸ボートに乗って水遊びをしたりすると、弁天様が焼き餅を焼いて、後で2人は必ず別れることになる──。これがそのジンクスのあらましです。なお、なぜ弁天様が人間の恋愛に嫉妬するのかについても諸説あるようですが、これといった決定的な理由は明らかにされていません。
ほとんどの人は迷信として一笑に付すと思います。しかし、いまだに一部の女性層の間ではこのジンクスが息づいているようで、今でもたまに上記のお客様のケースと類似する相談を受けることがあるのです。迷信自体が生まれた歴史的な経緯はともかく、どうしてそんなことが噂されるようになったのかについては、知り合いの同業者がかなり的確な分析をしていましたのでご紹介いたします。
その2
本人の説明によると「女性特有の物の考え方や感じ方」、そして「2人で手漕ぎのボートに乗る」というところが、このジンクスの肝だそうです。
まずデートで公園に行き、そこでボートに乗って遊ぶようなカップルというのは概して付き合い始めであることが多く、女性側もまだ相手の男性について詳しく知らない部分が残っている。そしてボートを漕ぐのは普通、男性の役割となるので、その際にいかにも男らしい逞しさや器用さなどを見せられれば、相手に対する好ましさや信頼の感情が自然と高まる。しかし、逆にオールが上手く使えなかったり、船上が揺れて危険な目に遭ったりすると、当然頼りないと感じ、男としてどこかに欠陥があるのではないかという根拠のない不安まで抱いてしまう。
つまり女性は無意識のうちに、乗船という状態を今後の恋愛関係の進展やさらには将来の結婚生活と重ね合わせてしまうので、「こんなに頼りなくてこの先、この人に守ってもらえるのかな」という疑心暗鬼に陥ってしまうわけです。そして最悪の場合は、そのまま別れてしまうと……。
単にボート漕ぎが上手いかどうかだけで、男としての資質や才能まで判断されてはたまったものではありませんが、女性には複数の物事を象徴的に捉えて同一視する癖(感情と思考の結びつきが強いために起きる)があるので、こればかりはしかたがありません。
その3
男女で手漕ぎボートに乗船することとの関連性によって心理学的に十分説明がつく現象であるにも関わらず、それは『弁財天の嫉妬』として勝手に独り歩きして広がってしまったようです。
ご存知のように、弁財天をお祀りする場所というのは全国各地にあります。そしてその3大代表格といえば、東の江の島と西の琵琶湖竹生島、さらに広島の厳島となるわけですが、このうち江の島と竹生島では、恋仲の男女連れでお詣りすると良くないことが起きると、今でもまことしやかに伝えられています。さらに最近では、千葉の成田山新勝寺(境内に立派な弁財天堂がある)でも同様の噂が流れており、カップルでの初詣をためらう風潮があると聞いたことがあります。言うまでもないですが、これらはいずれも根拠のない迷信に過ぎません。
そもそも弁財天というのは、男女の和合や縁結びとはあまり関係のない神様で、専ら美や芸術、技術などに関わる事柄、例えば各種技芸や音楽の才の開花、女性美の向上、引いてはそれらから生ずる財運などを司っています。神格の発祥地である古代インドではサラスヴァティと呼ばれ、かつて同地に存在した大河の流れを支配する豊饒の女神でした。それが後に仏教に習合されて一種の福の神のような存在に転じ、さらに日本に伝わると歌舞音曲の才能と財をもたらす仏神として篤く信仰されるようになったのです。
また蛇が弁財天のお使いとされているのも、この女神の前身が水神であるというところから来ており(一般に龍蛇は水神の眷属)、我が国で白い蛇が招財の吉祥とされるのも元々はこうした弁財天信仰に由来しています。
その4
各霊能者でその印象は多少異なると思いますが、私の場合、弁財天に参拝した際には一種独特の複雑なご神気を感じ取ります。大らかな穏やかさの中に一抹の活発さが入り交じった波動で、例えるならゆったりとした主旋律に多彩な楽器が加わって繊細な彩りを成す交響楽のような感じです。この波動の振動数は創造性の源である第5チャクラ(ヴィシュダ・喉の部位)に対応してそれを著しく刺激するため、とくに感受性の豊かな芸術肌の方などが受信すれば、才能開発や新しいアイデアの閃きへつながるというわけです。
一方、愛情を支配するのは第4チャクラ(アナハタ・心臓部)で、こちらに対応する振動数を有するご神気というのは、天部仏神でいえば愛染明王や鬼子母神、我が国八百万の神々の中では木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)や櫛稲田姫命(くしいなだひめのみこと)などに特有のもので、両者は自ずから働きが違うということが分かります。
ただし弁天詣でが恋愛事全てに関係ないのかと言えば、そうとも言えないところもあります。美的感受性が刺激されることから、少なくとも女性のファッションやメイクのセンスを向上させてくれる効果は大いに望めるのです。密教の加持祈祷の中にも『香薬三十二味洗浴法』と呼ばれる秘法があり、これは弁財天のご神力を借りて一切の災厄を取り除くとともに宿命を転換させて、万人を惹きつける魅力をも授けるという術です。そうした専門的な呪術はともかく、意中の相手を魅了するためにもっと美しくなりたいと願っている方は、ぜひともお近くの弁天堂へ参拝してみてください。